歌声 久々の、満天の空だった。 星が歌うとしたら、今夜だ。 こんなきれいな夜に遊ばない人の気持ちなんて分からない。 夏だし、夜でも寒くないし、それに寂しい夜ならしかたがない。 赦されることって結構たくさんあると思う。 最近、孫堅から一人の室を与えられた。 いつまでも孫策と同じ部屋では何かと都合が悪いだろうということだった。 誰の都合が悪いのかは、分からない。 誰の都合も悪いのかもしれない。 でも、折角一人きりの室を与えたのなら、もっと構ってくれたらいいのにと思う。 考え出すと腹が立つし悲しいから、あんまり考えないようにしている。 だから夜遊びくらい、赦してもらわないと困る。 構われないのは、寂しいから嫌いだ。 寂しいのは、絶対に嫌だった。 「今日は何処へ行っていたんだ?」 「ちょっと、星を見に……」 それでも、まさか戻ってきたらいるなんて想像していなかった。 ここは自分の室で、孫堅が腰掛けているのは自分の牀で、孫堅は今夜は忙しいから駄目だと言っていたはずだった。 「星を見に、な。誰とだ?」 「一人で」 孫堅の方が先に笑ったのだ。笑うしかなかった。 「嘘をつくな」 「あいにく嘘は苦手なんです」 「それが最大の嘘だな」 今夜は、明るい。月も星も出ている。 室にも光が差し込んでいて、孫堅の表情もはっきりと見えていた。 笑顔が怖い。 思わず後ずさっても、近づいてこないところがよけいに怖い。 「私、忘れ物を取りに行かなくちゃ……」 「何処へだ?」 「……宇宙?」 逃げるところなんてない。 諦めて、孫堅の隣に腰を下ろした。 「知らないと思っていたのか」 「知っていると思ってた」 首元に落とされる吐息を受け止めるのにも、もう慣れてしまった。 さっきまで、ここに唇を落としていたのは違う人だ。 それでも、愛されているなんて思っていなかった。 愛されるのなら、この人にだけでいい。 「思っているのなら、何故お前はいつも、」 そんな声を出されても、困る。 そんな切ない声を出して、手の内を晒すのはやめて欲しい。 「だって構ってくれないから。寂しいから」 いざというとき、どうしたらいいのか分からなくなる。 「だったら、わざわざ、」 わざとだということまで知っているということも、知っている。 「わざわざそんな真似をしないで俺のところにくればいい」 追い返すくせに。 「文台さま、」 いつものように唇に触れようとして、避けられた。 「……え?」 「……もう二度と夜遊びしようなんて思わないようにしてやろうか」 「……文台さま?」 なんで、笑っているんだろう。 笑顔が怖い。 「分かっているんだろうな?」 「分からない!」 突然、牀に縫い止められても何が何だか分からない。 ただ、目の前の孫堅がいつもと違うということだけしか分からなかった。 「い、痛いのは嫌だからね!!」 とりあえず主張だけしておく。これだけは譲れない。 「さあ、どうかな」 「……っ!?」 こんな笑顔なんて今まで見たことがない。 「……明日にしませんか、」 「却下」 …………!? 少々お待ちください★ (このシーンは歌声+に移動させました。)) 信じられない。 「どこにそんな力残してるわけ?年齢忘れてない?」 「久々だったからな……」 身体が思うように動かない。腰が悲鳴を上げていた。 自分の方が先に駄目になるなんて、思いもしなかった。 予測不可能なことは苦手だと思う。 「久々だよ…ホントに」 だから悪い。 「だから、寂しかったのか」 「寂しかった。悪い?」 少しでも優位に立ちたくて、その辺りが自分でもまだ子どもだとは思うが、孫堅の頬を両手で包み込む。 自分とは違う、この感触が好きだった。 抱きしめられた態勢でそんなことをしても、甘えているだけだと捉えられることは分かっている。 実際、甘えてはいる。 「外、きれいだから」 見に行きたい。 動けないからという理由で、抱き上げられたまま外に出る。 少しばかり得した気分だった。 「毎日こうだといいのに」 「それはさすがに俺でも無理だ……」 「そういう意味じゃない」 ただ、いて欲しいっていうだけだ。 星がたくさんありすぎて、孫堅の表情がよく見える。 今は、自分にしか見せない顔を見せてくれていると信じていたかった。 甘えてばかりだった。 たぶん、自分の表情も見られているのだろう。 あんまり幸せそうに笑っているとしたら、かなり悔しい。 「あの星、一個落ちないかな」 こんなにたくさんあるんだから、一個くらい私のために落ちてくれてもいいと思う。 「不吉なことを言うな」 「不吉じゃないよ?星が流れたら、願いごとが叶うんだ」 願いたいことがあります。 「子どものようだな」 「子どもだよ。私がまだ子どもだっていうことは、文台さまが一番知ってる」 「そうだな。それで、願いごとは何だ?」 こんな風に。 「秘密にしてないと叶わないんだ」 ずっと。 歌声は誰かのものじゃなかった。 |
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